3月12日の南ドイツ新聞朝刊に掲載された、『Gedanken an Fukushima(フクシマを憶う)』の記事に対する、スイス人ジャーナリスト、クリストフ・ナイトハード(在東京)の批評。
Dienstag, 12, März 2013, Nr. 60 Süddeutsche Zeitung von Christoph Neidhart
福島第一原発事故(福島第一原子力発電所事故)から二年目を迎えた日、安倍晋三内閣総理大臣は「新しい強靱な日本」を約束した。このことは、特に放射線に
よる汚染で故郷を後にしなければならなず、今後二度と戻ることは許されないであろう住民には、聞こえがいいかもしれない。ただ、安倍が従来のエネルギー政
策を基盤とした「新しい日本」の再建を考えているという点には、あまりいい響きがしない。
すでに2007年に総理大臣として、危機一髪であった、ある原発事故の隠ぺいに関わった安倍は、まさに原子力界の人間といえる。彼の率いる自民党もまた大
企業の政党である。自由民主党(LDP)は日本の核エネルギーへの依存を蔓延させ、ずさんな管理を隠ぺいし続けてきた。このことからも、安倍には「原子力
発電所の安全性が確認され次第」現在停止中の原発を稼働させる、と発言する資格はないといっても過言ではない。いつ安全性が確認されるのかは、不透明であ
る。現在稼働している二つの原子炉は、今年の夏には定期点検となり一点停止されると、日本では再びすべての原発が停止中となる。
あるアンケートによると、80%の日本国民が原子力に反対をしているが、安倍はこの世論を変えたい。また、旧組織(原子力安全・保安院)より課題を真摯に
受け止めている原子力規制委員会(2012年発足)も説得しなけばならない。目下ところ、この規制員会は新しい安全規準を検討している。そして、複数の原
子力発電所が活断層の上に位置することが明らかにされた。これらは長い間知られていたにも関わらず、無視されたままだったのである。
首相はフクシマにも動じず、原子力に固執する。
日本社会が原子力に頼らずに機能することは、昨年夏に証明された。ただし、産業界からは高騰する電気料金について批判の声が上がっている。また日本の温室
効果ガスの削減目標も達成されないだろう。しかし安倍には、原子炉 の再稼動
にこだわる別の理由がある。それは原子力発電の運転停止を続けさせれば、福島原発を管理している東電(Tepco)が事実上そうであるように、電力会社を
破産に追いやることになるからである。
日本は今年7月に参議院選挙を控えている。自民党を危険にさらすことのないように、安倍は参院選を前にして、原子炉を稼働させることのないよう注意を払う
だろう。巧みに難局を乗り切ろうとしているのだ。原発の再稼動させたいが、可能ではないと、安倍はいう。つまり、産業界が望んでいる発言をすると同時に、
国民も安心させている。しかし、安倍はそのようなやり方で3.11後に起こったエネルギー転換に緩やかに歯止めを、新しい立て直しを求められている電力業
界への圧力を和らげるているのだ。
福島の原発残骸の取り扱いについても、嘘で塗り固められたものである。汚染廃棄物は今のところ正しく処理される状況ではない。津波で破壊された原子力発電
所をどのように撤去するか、いまだに一つの計画も挙がっていない。この間も毎日、タンクに貯められた400トンもの放射性汚染水が流出している。どう汚染
物質を処理するかは、誰にもわからない。
さらに、日本政府は、汚染された集落は除染されうるというフィクションを信じて疑わない。家屋やアスファルトは水をかけて洗浄され、汚染された土壌は表面
が取り除かれた。しかし、場所によっては、除染後も以前として高い放射能量数値を示すところもある。除染によって低い数値を示したとしても、その数値は
チェルノブイリであれば、立ち入り禁止区域に指定されるであろう数値であるのだ。約16万人の国民が避難し、永久に故郷を去らなければならないことは、一
層現実味を帯びている。いずれにせよ、この過半数の住人たちは故郷に戻ることは望んでいない。
しかしながら、そのことについて日本政府は知りたがらない。あのように巨大な原子力発電事故ですら、克服できることを証明しようと、政府は高額で宣伝効果のある、無意味な除染作業に固執している。安倍の確約する「新しい日本」こそ、古い日本なのである。
(拙訳)